あい(愛)

確か遠藤周作氏の作品だったと思う。とある村で、一人の男が病気になって寝たきりになる。その病気を治す術は無く、しかも伝染性のものであったから、周りの人々は彼を遠ざけ、山の中腹にある人の近づかない小屋の中に彼を隔離した。人々は日に何度かその小屋のそばに食べ物を置いては逃げるように帰ってしまう。やがて時が経ち男の病状が進み、もはや時間の問題となった時、その村にイエスが現れる。ここでイエスが彼を救うのなら美しい奇跡の物語になるのであるが、そうではない。ここに現れるイエスは全くの無力なのである。水を葡萄酒に変えることも人々の苦痛を取り去ることもできない、ただの人としてイエスはやって来る。イエスは人々の話を聞き、病の男が寝ている小屋に向かう。小屋の中にはもう食べ物を口にすることも出来ず、苦痛に息を乱す男が寝ていた。イエスは彼の死期が近いことを悟る。イエスは彼の枕元に座り、手を握ってこう言うのだ。「私にはあなたの命を救うことが出来ない。あなたの苦痛を和らげることも出来ない。ただ、私はここに居る。あなたは一人ではない」